刑事手続のIT化
世の中、社会全体が、急速にIT化、デジタル化しています。ビジネス分野では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が起きています。
行政手続も例に漏れません。先日のブログ記事に書いたとおり、氏名フリガナの戸籍記載は、行政手続デジタル化の基盤整備のためでもあります。
そのように、行政手続のIT化、デジタル化が進んでいますが、この流れは「司法」でもまた同様です。
すでに司法手続の中でも、民事分野の民事訴訟法は、先行して法改正がなされていたのですが、先日、刑事訴訟法も改正法が成立しました。これにより、捜査や公判手続をIT化する規定が、刑事訴訟法に盛り込まれました。2027年3月までに施行されます。
司法のIT化は時代の要請で、言ってみれば必然の流れでしょう。それは確かにそうです。ただ、同じ司法の中にあっても、刑事司法、刑事手続のIT化、デジタル化となると、個人的にはインパクトのある変化です。
「そうかぁ、刑事司法の分野もいよいよか。」と、感慨深いものがあります。
刑事手続の厳格性
刑事司法は、国家権力によって国民の権利、利益を制約するもの、極端な表現をすると「剥奪」するものです。その最たるものは、その生命をも奪う死刑です。
刑事訴訟法における手続は、そのように人権に直結するものなので、厳格にその履践が要求されます。手続の重要性、厳格性は、民事の比ではありません。手続を踏むことを通じて、手続に携わる関係者の活動が自ずと慎重になることが期待され、また、活動経過が可視化され、第三者からのチェックも可能となるからです。手続の要式性が定められ、その都度、書面作成等が必要とされるのも、そのためです。
迂遠に思える手続であろうとも、厳格にそれを守らなければなりません。手続に携わる関係者は、「こんな面倒くさいこと、なんでいちいち…。」とは言えない構えになっています。
今回の刑事訴訟法の改正は、そのような刑事手続をIT化するものです。

電子令状
今回の刑訴法改正では捜査機関がオンラインで令状を請求し、裁判所が電子データで発行する「電子令状」も導入されました。捜査員は手元のタブレット端末で捜査対象者に電子令状を示して執行できるようになります。
憲法や刑事訴訟法に規定されている重要な原則の一つに「令状主義」というものがあります。憲法33条、35条、刑事訴訟法199条等の条文に書かれています。
これは、事件捜査における一定の重要な強制処分は、事前に裁判官が発付した令状がなければ執行できない、という原則です。
捜査員が逮捕、捜索、差押え等をするには、事前に裁判官に令状を求めなければならず、裁判官は第三者的立場から公正に審査して必要な場合に令状を発付し、その執行も令状に記載された範囲に限られます。
- 請求段階では、裁判官に対する説明責任を負う捜査機関内部で組織的な牽制が働く。
- 発付段階では、裁判官という第三者による公正な審査がなされる。
- 執行段階では、処分対象等が明示された令状の呈示で不当な侵害が防止される。
これらの各場面で、上記のように不当な権利侵害は抑制される仕組みになっています。
各種手続がIT化され、特に捜査令状が紙から電子に変わっても、各手続の重要性に変わりありません。また、IT化されたとしても、手続の履践に影響はないはずです。
ただ、この点については、一般国民も少しぐらいは関心を持っておいてもよいかと考えます。
余談
最後に一つ、余談です。
上記のとおり、令状の執行には、令状の呈示が必要です。ところが、逮捕時に警察官が令状(逮捕状)の呈示をしなかった上に、その違法をごまかすため、「逮捕現場で逮捕状を示した。」と虚偽の記入をし、さらには事実に反する証言までした事件がありました。これは、実際に起きた事件です。
大学法学部等の刑事訴訟法の講義では、「違法収集証拠の排除」という項目を学ぶのですが、その際によく出てくる判例です(最高裁平成15年2月14日判決)。
逮捕現場まで逮捕状を持参したとする警察官の証言に対し、逮捕状の現物を裁判官が示し、「あなたは逮捕状を半分に折り、ズボンの左後ろポケットに入れて持って行ったと証言しましたが、この逮捕状には折り目がないのではないですか。」と、追及をしたのです。
この事例では、紙の令状だからこそ可能であった追及です。電子令状だと、紙の折り目なんてのは出てきませんから。
最後の話は、全くの余談です。ただ、電子令状という今回のニュースを見たときに、私が真っ先に頭に浮かんだのが、この判例です。
それでは、また次の記事で。
goosyun
